ISC DHCPとは
ISC DHCPとは、DHCPの機能を提供するオープンソースソフトウェアである。ISC(Internet Systems Consortium)が、DHCPプロトコルの完全なリファレンス実装を目指して開発した 。ISC DHCPは、MPL2.0のライセンスに基づいて公開されており、無料でインストールすることができる。ISC DHCPは、DHCPサーバとして機能するほか、BOOTPサーバとしても機能する。また、IPv4とIPv6の両方をサポートしている。
ISC DHCPは、ケーブルテレビ、プロバイダ、企業、大学などの大規模なネットワークを持つ組織で多く利用されている。しかし、開発元のISCは2022年に、ISC DHCPのメンテナンスを終了することを発表し、ISC DHCPにおけるDHCPクライアント、DHCPリレーエージェントの機能の開発・サポートを終了している。
ISC DHCPの機能
ISC DHCPは、DHCPサーバ、DHCPクライアント、DHCPリレーエージェントとしての機能を提供している。
DHCPサーバ
DHCPサーバは、DHCPクライアントの要求を受け取り、応答するサーバである。多くのLinuxディストリビューションで、ISC DHCPをDHCPサーバとして組み込むIPアドレス管理アプリケーションを提供している。そのため、ISC DHCPは、DHCPサーバのデファクトスタンダードとなっている。また、ISC DHCPは、Dynamic DNSに対応している。Dynamic DNSの機能を使うことで、DHCPで割り当てたクライアントの情報をDNSサーバに送り、DNSサーバの情報を更新することができる。DHCPサーバとDNSサーバと連携して、動的にIPアドレスとホスト名の紐付けを行う必要がある場合に、Dynamic DNSを利用することができる。
DHCPクライアント
ネットワークから自動的に設定情報を取得し、DHCPサーバに対し要求を送る機能のことである。クライアントコンピュータやIPネットワークに対応した機器によってこの機能を提供している。ISCは、このDHCPクライアントの開発を2022年に終了しているため、本番環境で使用することはできなくなっている。
DHCPリレーエージェント
クライアントから受け取った要求を、他のLANに存在するDHCPサーバへ渡す機能のことである。この機能を使うことで、サーバとクライアントが異なるLANに存在する場合でも要求を転送することが可能となり、全てのLANにDHCPサーバを置く必要がない。ISCは、このDHCPリレーエージェントの開発も2022年に終了している。
ISC DHCPの課題点とKea DHCPのリリース
古くからISPや企業など広い範囲で使用されてきたISC DHCPだが、設定変更時にサーバの再起動が必要になるという問題があった。プロバイダなど大規模なネットワークを持つ組織の場合、DHCPサーバが持つ情報も大きくなり起動に時間がかかるため、その間サービスが停止状態になり、大きな影響があった。そこで、ISCは2015年に後継のOSSとしてKea DHCPを開発・リリースした。
Keaは、サービスプロバイダ、大学等の教育機関、企業で利用することを想定して開発されており、高い性能のサービスを提供できるように設計されている。Keaを利用することで、以下のようなメリットがある。
設定変更時にサービスを停止する必要がない
Keaは、サブネットやIPプールの追加・変更などの設定をする際、サーバの再起動を行う必要がない。そのため、DHCPサーバを停止することなく、サービス無停止で安定してシステムを運用することができる。
大量のDHCPリクエストにも対応
リース情報をMySQL等のRDBMSに出力することができるため、大量のDHCPリクエストにも対応することができる。
外部アプリケーションと連携できる
Keaには、外部システムと連携を行うためのAPIが用意されている。APIを通して、DHCPサーバの統計情報を取得したり、リース情報を簡単に検索することができる。
Kea DHCPのリリース後、開発元は今後はより将来性のあるKeaのサポートにリソースを注力する必要があると判断し、前述の通り、ISC DHCPについては2022年にクライアントおよびリレーエージェントのサポートを終了した。DHCPサーバーは引き続きメンテナンスが続くものの、ユーザーへKeaへの移行を促している。
ISC DHCPについては、Keaに現在含まれないクライアント機能やリレーエージェント機能が必要な場合にのみ、実装することが推奨されている。なお、RHEL9などパッケージの提供元によってはサポートを受けられる場合もある。
デージーネットの取り組み
デージーネットでは、ISC DHCPのサポート終了に伴い、Kea DHCPへDHCPサーバの移行を行った事例がある。今回の環境は利用ユーザが2500名程度と多かったため、HAクラスタの冗長化構成を提案した。移行の結果、ISC DHCPと同じ設定のままKea DHCP Serverを利用できるようになった。また、Keaでは、外部システムと連携するためのAPIがデフォルトで提供されている。これを利用して、DHCPサーバの統計情報を取得し、統合監視ソフトウェアのZabbixを活用して、更新された詳細な情報を監視するツールを作成した。これにより、システム運用者の負担を改善することができた。この事例の詳細は、以下の記事で解説している。
「ISC DHCPからKea DHCPへのDHCPサーバ移行事例」へ
さらに、デージーネットでは、Kea DHCPの外部アプリケーション連携機能を利用して、管理Webインタフェース「KeaKeeper」を開発し、オープンソースとして公開している。KeaKeeperを活用することで、Linuxやデータベースの知識がなくても、Web上でKea DHCPのデータベース管理を安全かつ便利に行うことが可能となる。インストール方法や詳しい機能については、マニュアルページから確認することができる。また、ベンチマークの結果も含めて、Keaの調査・検証を行った結果を「Kea調査報告書」として公開している。
Keaは新しいソフトウェアということもあり、まだ実績が少ない。デージーネットはISPサービスを提供しているケーブルテレビと連携して、Keaの実証実験を実施している。
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